SPOZIUM(スポジウム)

ACTIVATION

理想的なスポーツスタジアムの作り方(後編)

文:新川 諒 構成:SPOZIUM編集部

前編では、スポーツファシリティ研究所代表取締役上林功氏に、スポーツ施設建築への関わり方や、Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島の設計に至る経緯について伺いました。今回は、Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島がどのようにして建設されたのか、その成功の秘訣について具体的に掘り下げていきたいと思います。

広島市(発注者)が環境デザイン研究所(設計者)に求めたことはなんだったのでしょうか?

広島市は設計チームに対し、予算を90億に納めること、そして広島東洋カープと連絡を密に取ることを求めました。プロ野球興行に適した球場作りをするために球団側と調整していくことが求められたんです。そのため、カープ、広島市、そして環境デザイン研究所による、発注者、興行(予定)者、設計者によるチームビルディングが求められたプロジェクトでした。

旧市民球場では球場の施設管理は広島市がおこなっており、球団は興行権を得て試合興行の際に借り受ける仕組みでした。新球場では球団が指定管理者となって、施設管理・運営方針を市に提案・協議しプロ野球興行に適したスタジアムの管理維持運営ができる仕組みをつくりました。プロ野球フランチャイズ球場では千葉ロッテ、東北楽天に次いで3例目となります。

写真 2015-09-07 18 53 49
スポーツファシリティ研究所代表取締役上林功氏

スタジアム建設において、広島市は実際にどのような役割を担ったのでしょうか?

発注者である広島市は建設費捻出のため計画と密接に関わるスキームを考えました。スタジアム建設予定地であるヤード跡地11.6ヘクタールに対し、球場建設に必要な敷地面積は約5ヘクタールとなります。広島市は設計コンペのなかでヤード跡地11.6ヘクタールのどこに球場を配置して、球場以外の余った敷地をどのように使用すべきかについて、併せて提案を求めました。

新球場の配置場所を決め、敷地境界線を設定して新球場以外の土地を民間に売却しています。巨大な敷地から球場で使用する部分を最低限の範囲で切り取り、他の土地の売却資金でスタジアムの建設費の一部を捻出しました。

当時は道路特定財源による「まちづくり交付金」がありました。コンコースを開放し、道路と同じような公共性の高い部分として計画することで補助金交付を受けてるんです。全国を行脚しカープファンから浄財を集めた「たる募金」や、地元銀行での新球場債の発行、期間限定の新球場仕様ペットボトルの一部売り上げの寄付など、あらゆる工夫をこらして建設費が集められました。

これらの取りまとめを担ったのも広島市です。また、施設そのものにおいても、広島市主導で寄付樹木が集められ、スタジアムの周囲の修景計画に組み込まれました。ただの発注者として傍観するのではなく、自ら計画に力を注ぎ、自治体だからこそできる工夫を注ぎ込んだことが、他のスタジアムとの大きな違いを生んでいると思います。

このコンペを環境デザイン研究所が勝ち取った要因は何だったのでしょうか?

決定的に他の案と違ったのはスタジアム配置でした。多くのコンペ案では駅から球場に向かう人たちに対して、球場を近づけて敷地に奥ににぎわい施設をまとめる案と、逆ににぎわい施設を駅側に近づけて奥に球場を配置する案がほとんどだったんです。環境デザイン研究所の案は、ヤード跡地のど真ん中に球場を配置することで、にぎわい施設を回りに散りばめ、できるだけ球場とにぎわい施設の接点を多くできるように計画提案されていました。

見取り図
ヤード跡地のど真ん中に球場を配置

海外のケースを見ても球場エリアと商業施設エリアをはっきり分けて計画すると、商業施設と球場に物理的にも心理的にも壁が出来てしまうといわれます。球場と周囲の施設が複合的に繋がることは、施設運営側からするとオペレーションが困難で挑戦的な提案だったといえるかもしれません。

しかし、広島市と広島東洋カープがこの我々のチャレンジを面白いと感じてくれたのだと思います。球団は運営者として施設と関係し、施設だけではなく街全体と一体となる提案を求めていました。広島市はそうした考えをくみ取り、法規制やスキームなど自治体としてできる最大限の工夫を提供する準備をしていました。その関係の中に上手くはまったのが環境デザイン研究所だったのではないでしょうか。

Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島の魅力を教えてください。

このスタジアムはよくメジャーリーグの球場を参考にしたと言われますが、設計チームとしては別の考えを盛り込んだ印象が大きいです。環境デザイン研究所の主宰である仙田満先生は子どもの成育環境、幼稚園や保育園を専門とし、長年研究されてきた建築家です。

仙田満先生の研究のなかで子ども達が興味をもち長時間楽しむことができる遊具の構造とは何かという研究があります。「遊環構造」という7原則にまとめられた研究結果を一般の建築にも当てはめることで、誰しもが楽しめる施設計画に結びつけています。
遊環構造
仙田満先生の研究である「遊環構造」

Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島にもこの「遊環構造」が取り入れられており、7つの原則のうちの1つである「循環できること」は、コンコースの作りに用いられました。循環する経路上に色々な要素を、同じく7つの原則に従いながらちりばめ、巡りながら楽しめる施設計画をおこないました。このように、Mazda Zoom-Zoom スタジアム広島はボールパークではなく、日本で一番巨大な遊具として作られたのです。

また、このスタジアムは、日本のその他のスタジアムにない特徴として、外に大きく開かれた球場であることがあげられます。例えば、新幹線からスタジアムを見ることができるのをご存知な方も多いですが、実は在来線からも見えやすい構造になるよう心がけてるんです。”ちょっと立ち寄ってみようか”と広島駅構内の仕事帰りの人々に思わせる、開いたスタジアムづくりが設計に取り入れられました。

駅から
駅から見ると分かる”開いた”スタジアムづくり

レフト後方には、“ただ見エリア”が存在しています。無料で金網越しに球場を見ることができ、雰囲気は感じ取れるものの、少し見にくい構造になっています。横を振り向くと、そこにはチケット売り場が設置されているのはうまい仕掛けだと思います(笑)。歓声や応援が聞こえることで、外から球場内の盛り上がりを体感出来る球場はたくさんありますが、それを視覚的にも心がけたのがこのMazda Zoom-Zoom スタジアム広島です。

ただ見エリア
”ただ見エリア”の横にはチケット売り場が・・・

先日撤回された新国立競技場とMazda Zoom-Zoom スタジアム広島、建築における両者の大きな違いはどこにあるのでしょうか?

撤回された新国立競技場の特徴を挙げると、道路が建物の一部になる、つまり、土木と連携するような有機的な形態が特徴となっているところがまずは気になりました。日本における工事区分では建築と土木で担当窓口が異なることもあり、互いの境界線がしっかりと引かれています。マツダスタジアムではヤード跡地11.6ヘクタールの全体計画を含め、球場だけでなく街づくりに対して提案が求められ、駅からの観戦者を迎え入れる大スロープなど広島市や関係者の尽力で建築と土木の上手い連携を取ることができました。

一方、新国立競技場のコンペでは周囲の都市計画を置き去りにしてスタジアムのみが議論の中心となっている気がします。確かに調整が困難な土地柄であることは確かで、新国立競技場の周囲の都市計画を考えたとき、新宿区、渋谷区、港区の区域の境界が交わる地域であり、土地の所有者についても、国、区、明治神宮とステイクホルダーを整理するだけで大変な場所であることがわかります。

こうした敷地においては、行政との調整が不可欠です。調整役を受託していた設計事務所が批判されているとも聞きますが、そもそも発注者がマツダスタジアムでの広島市のように積極的な関与を行なっていれば状況は変わっていたかもしれません。

最後に、まさに今行われている新国立競技場建設の再コンペについてご意見をお聞かせください。

国交省より示された再コンペの要項は規模こそ大きなものの、取り立てて特別な内容は盛り込まれず、地方自治体で国体などのスタジアムを計画する際に出されるようなありきたりな設計与件でした。つまり、現在地方自治体で起きているような不良債権としてのハコモノスタジアムとスタート地点を一にしています。

指定管理者などその後の運営方針を施設計画に盛り込むことができなければ、東京2020大会の負の遺産となることが目に見えています。一部報道で今回2チームが新国立再コンペに応募しているとのことですが、コンペ提出前の今だからこそスポーツビジネスマネジメントの専門家を設計・建設チームに入れるべきだと考えます。

ロンドン2012大会のメインスタジアムは最小限の構造による五輪後の改修を視野に入れた設計でしたが、結局のところ関係者の調整に手間取った結果、速やかな改修工事に移行できず、さらにラグビーワールドカップや世界陸上など大規模大会誘致が逆にあだとなり、いまだに改修工事を完了できず連鎖的に後手にまわってしまっています。新国立競技場建設後の五輪大会運営までは念頭にあっても、大会後スムーズに施設運営に移行できる仕組みを考えておかなくては、無駄な資金を投入することになりかねません。まさに今が行動すべき瀬戸際であると思います。

文:新川 諒 構成:SPOZIUM編集部