SPOZIUM(スポジウム)

ACTIVATION

通信・テクノロジーカテゴリのホットボタン(前編)

文:鈴木友也

これまでこのコラムでは、航空、金融カテゴリの業界特性やホットボタン、アクティベーション事例について整理しました。今回は、これらに続く第三のカテゴリとして、通信・テクノロジーカテゴリをご紹介しましょう。

通信・テクノロジー企業と一言で言っても、様々です。通信・携帯キャリアのようなコミュニケーションサービスを消費者に提供する会社(例えば、KDDIやソフトバンクなど)から、通信・ネットワークインフラを提供する会社(NECやCiscoなど)、携帯電話やパソコンなどのハードウェアを製造する会社(パナソニックやキヤノンなど)、ICT・映像ソリューション技術を活用して新たな商品・サービスを設計・開発する会社(NTTや富士通など)など多岐に渡ります。

実際は、それぞれサブカテゴリを切って独占権を確保しつつ、各サブカテゴリでの業界特性を踏まえたホットボタンを検討することもありますが、このカテゴリの企業は往々にして複数カテゴリにまたがって事業を展開していることもあり、今回は入門編ということで、こうしたサブカテゴリに共通する特性やアクティベーションへのヒントを考えてみようと思います。

スポーツビジネスの「売り物」が変化

実は、この通信・テクノロジーカテゴリは、米国スポーツビジネスで今最もホットで動きのある業界です。それは、米国ではここ数年でスポーツビジネスの事業環境が大きく変わり、経営者が求める「スポーツビジネスの訴求価値」(Value Proposition)に大きなシフトが起こっているためです。

「バリュー・プロポジション」(Value Proposition)というと耳慣れない英語だと思いますが、米国でスポーツ組織の経営者と話していると必ずと言っていいほど出てくるキーワードです。簡単に言えば、マーケティングにおける「3つのC」と言われる「顧客」(Customer)、「競合」(Competitor)、「自社」(Company)を踏まえて事業環境を俯瞰した中で、自分の売り物の価値をどう高めれば独自の価値を提供できるかという視点です。

米国では、ここ数年でテレビの大型化・低価格化・高精細化が進む一方で、若者層のエンターテイメント消費形態が変化しており(1つの娯楽の長時間集中して楽しむのではなく、複数の娯楽を同時並行でゆるく楽しむ形に変化)、もはや試合観戦という機会の提供だけがスポーツビジネスの「売り物」ではないという理解が常識的になってきています。つまり、スタジアムやアリーナに来ても、試合観戦「しか」楽しみがないのであれば、それはテレビ観戦と大差はなく、将来の優良顧客となる若年層のニーズにもフィットしないのです。

そのため、最近はスタジアム・アリーナで体験する全てのものがスポーツビジネスの「売り物」であるという理解に変化しつつあります。そこでキーワードとなっているので、「ファン体験」(Fan Experience)です。これは遊園地などと似た発想なのですが、駐車場に車を止め、入場してから様々なアトラクションを楽しみ、退場するまでの全ての体験が売り物であるという考え方です。

従来まで、試合観戦の価値向上に直結しないサービスは検討対象として考えられない雰囲気がありましたが、今や「ファン体験」を向上させる技術・サービス全てが投資対象として認められるようになってきたのです。そして、ファン体験を構成する駐車、入場、観戦、応援、飲食物・グッズ購入、トイレなどのあらゆる顧客接点でテクノロジーの導入可能性の是非が問われるようになっています。

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スマートフォンアプリ「At the Ballpark」。座席にいながら飲食オーダーも可能に

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米国で導入が進むペーパーレス・チケット。スマホでラクラク入場可能

その分かりやすい例がWi-Fiかもしれません。スポーツ施設にWi-Fiを導入するには数億円規模の投資が必要になりますが、直接的にお金を生むものではありません。個別に投資対効果を論じると、「効果なし」となってしまうかもしれませんが、今求められている発想は、むしろ「競合との顧客争奪戦に勝つために必要なファン体験を作りだすための投資レベルはどこか」という考え方なのです。Wi-Fiの位置づけは、施設内のトイレや照明と同様に、ないと話にならないインフラなのです。

通信・テクノロジーカテゴリのホットボタン

このように、このカテゴリではファン体験を向上させるためのソリューションとして通信・テクノロジー会社の商品・サービスが活用される流れにあります。そのため、実際に施設来場者が不便に感じていた点を解消したり、ファン体験を大きく向上させることができるようなサービスを実際に提供している場面を「ショーケース」として見せることが最も有効なホットボタンとなります。

こうした通信・テクノロジー企業がB2Cビジネスに従事している場合は、施設来場者=商品・サービスの潜在的購入者になりますから、スポーツ施設へ協賛は非常に理にかなった投資ということになります。全国的な販売・代理店ネットワークを活用して営業しているケースも多いため、「販売店への集客」や「販売員のモチベーション向上」を促すようなプロモーションの設計なども効果的なホットボタンと言えるでしょう。

一方、B2Bビジネスの場合は、その技術やサービスを購入してもらうクライアント企業を招待し、実際のソリューションの現場を視察してもらう「潜在顧客の接待」という形で応用することも可能です。百聞は一見にしかずで、実際に技術を応用して顧客(=観戦者)が喜ぶ様子を見ることができれば、成約率も上がるでしょう。

また、パートナー企業やサプライヤーに権利の一部を譲渡して販売促進などに活用してもらう「パス・スルー」という使い方も一般的です。例えば、携帯キャリアがスマホの利用者を増やすために、iPhoneを製造するアップル社にプロモーションの機会を提供するようなイメージです。

最後に、いわゆる「VIK」(Value In-Kind)と呼ばれる現物支給型のメリット提供の方法もあります。オリンピックなどの大規模イベントではしばしば見受けられますが、例えば大会運営のバックエンド・通信システムを開発するといったように、協賛することにより得られる事業機会を1つの案件として受注するのです。

次回は、こうしたホットボタンを踏まえた上で、実際の通信・テクノロジーカテゴリの協賛事例をご紹介します。

<通信・テクノロジーカテゴリの主なホットボタン>

最新テクノロジー・商品のショーケース的活用
テクノロジーやサービスを活用してファンの不満や顧客満足度を上げる場面を実際に見せる機会を提供する

販売・代理店への集客
商品・サービスの販売・代理店に集客を促すプロモーションなどを設計しやすい機会を提供する

販売員のモチベーション向上
販売・代理店の販売員のモチベーションを向上させるプロモーションなどを設計しやすい機会を提供する

潜在顧客の接待
クライアント企業を招待し、実際に技術やサービスがソリューションとして活用され、顧客が喜ぶ姿を見てもらう

パートナー企業への権利譲渡(パス・スルー)
パートナー企業やサプライヤーに権利の一部を譲渡して販売促進などに活用してもらう機会を提供する

現物支給(Value In-Kind)
協賛することにより得られる事業機会を1つの案件として委託する

文:鈴木友也