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“野球で、人を救おう。” BLFが取り組む「スポーツ×社会貢献」(前編)

文:岡田真理

「野球で、人を救おう」をスローガンに、野球を通じた社会貢献活動を展開するNPO法人ベースボール・レジェンド・ファウンデーション(BLF)。その活動コンセプト“選手・ファン参加型の楽しいチャリティー”は、アメリカで得た学びを取り入れたものです。前編では、そんなBLFの設立の経緯をご紹介していきます。

ボストン・レッドソックスの驚くべき迅速な対応

2013年4月15日、ボストンマラソンで爆弾テロ事件が発生し、3名の命が奪われ、282名が負傷しました。犯人逮捕までボストンには外出禁止令が敷かれたため、同市を本拠地とするメジャーリーグ球団レッドソックスの公式戦も見送られ、試合が再開されたのはクリーブランド遠征の3日間を挟んだ5日後、4月20日のことでした。

テロから試合再開までの4日間で、レッドソックスは新たにチャリティーロゴをデザインし、提携ショップがTシャツやキャップなどのグッズを制作。メジャーリーグ機構など各方面に権利費放棄の確認をとり、試合再開日の開門時間に販売をスタートさせました。その収益と、メジャーリーグ機構や選手会からの寄付、選手の使用ユニフォームのオークション収益すべてを、テロの被害者や遺族の支援に充てました。集まった金額は、1ケ月で219万ドル(当時のレートで2億1900万円)にもなったそうです。

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テロ事件から5日後の試合再開日、レッドソックスは犠牲者のための追悼セレモニーを実施。その準備も、チャリティーグッズ製作と並行してわずか4日間で行われた。

当時フリーライターとしてニューヨークで活動していた私は、レッドソックスの迅速な対応に驚きながらニュースを見ていました。そして、翌月には支援に関する取材を球団に申し込み、ボストンへと飛びました。その取材を通して、球団には迅速に対応できるだけの基盤があることがわかったのです。

野球振興ではなく、一般市民に向けられた支援

レッドソックスは2002年に「レッドソックス・ファウンデーション」というNPO部門を設立。柱となる活動は、①小児がん支援団体「ジミー・ファンド」のサポート、②環境に恵まれず教育を受けられない子どもへの奨学金制度、③戦争で障害を負った兵士への生活支援、④医療ケア等を受けられない市民のサポート、⑤子どもの非行を減らすことを目的とした少年少女野球プログラムの5つです。これまで7000万ドル近くの基金を集め、これら5つの活動に充てています。

その活動を取材する中で、注目すべきことが二つありました。一つは、レッドソックス・ファウンデーションが野球と直接関係のない一般市民を支援していることです。日本でも何人かのプロ野球選手が被災者や難病の子どもたちに向けた支援を行っていますが、やはり野球教室などの野球振興活動がメイン。もちろん、それは野球界発展のために欠かせないものですが、本当に困っている人たちに向けた支援を日本のプロ野球ももう少し充実させてもいいのではないかと感じました。

もう一つは、アメリカでは、アイスクリーム食べ放題がチャリティーになるなど、楽しんで参加できるイベントが多いことです。慈善活動となると、日本ではどうしても深刻になりがちです。スポーツならではの「楽しい」という要素を、日本の野球界でももう少し取り入れてもいいのではないかと思いました。この二つは、レッドソックス・ファウンデーションから得た大きな学びでした。

アメリカでの感動体験を、日本の子どもたちへ

その後、レッドソックスは快進撃を見せ、ワールドチャンピオンに輝きます。4月にはテロでひどく沈んでいたボストンが、10月には歓喜に包まれていたのです。野球というスポーツが、支援だけでなく、感動も与えていました。私はレッドソックスの選手たちを見て、「彼らこそ、真のスーパースターだ」と強く感じました。日本の子どもたちにも、そんな思いを抱いてほしい。そうすれば、もっと多くの子どもがスタジアムに集まってくれるのではないか。もっと多くの子どもが野球をやりたいと思ってくれるのではないか。そんなことを思ったのです。

翌年、日本に帰国した後、現役のプロ野球選手や選手のマネージャー、プロ野球OB、球団職員、メディア関係者など、野球に関わる様々な人たちに私の感動体験を伝えました。そして、アメリカでの学びをぜひ日本のプロ野球界に活かしたいと考え、みなさんの協力のもと、2014年7月に任意団体として「ベースボール・レジェンド・ファウンデーション(通称BLF)」を設立し、11月に東京都からNPO法人の認証を受け、正式に活動をスタートさせました。

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合言葉は「野球で、人を救おう。」ウェブサイトやパンフレットには、設立のきっかけとなったボストン・レッドソックスの本拠地フェンウェイ・パークの写真が球団の許可のもと使用されている。

BLFのミッションは、「選手・ファン参加型の“楽しいチャリティー”を展開し、野球とは関係ない一般市民を救って、野球を『娯楽』の域に留めず『文化』としてさらに発展させること」。まさに、アメリカでの二つの学びを活かしています。

アメリカでは、もし野球が社会からなくなったら、球団や選手から支援を受けている一般市民は困ってしまう。そう思えるほど、野球の存在意義があるのを感じました。日本の野球も単なるエンターテインメントではなく、世の中の「ニーズ」になるだけのポテンシャルはあるはず。野球によって“物理的”に救われる一般市民がもっと増えれば、野球の存在価値が上がり、ファンが増え、野球が文化としてさらに発展するに違いありません。プレーでファンを感動させることは選手にしかできませんが、“物理的”な支援の部分であれば、我々にもお膳立てくらいはできるだろうと考えたのです。

文:岡田真理