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”2020年以降のスポーツ界のために” SBAが目指すもの。vol.3

文:岡田 真理 構成:SPOZIUM編集部

今年10月に開校した、大学生・社会人のための超実践派スポーツビジネス講座「Sports Business Academy(SBA)」。荒木重雄氏と共に、SBAの共同創設者である鈴木友也氏にもお話を伺った。前半は、鈴木氏がスポーツに関わるようになったきっかけや、スポーツビジネスの日米の違いについて語っていただく。

Q1.鈴木さんがスポーツビジネスに興味を持ったきっかけを教えてください。

大学時代、私は体育会アメフト部に所属していたのですが、部活の先輩リクルーターによる、おつきあいもしていないのにお見合いして結婚するかのような就職活動の方法に違和感を覚え、いろんな業種を見てみようと外資系コンサルティング会社に就職しました。実際に製造業、金融業、官公庁など様々な業種のクライアントと接してみると、どの業界にも一長一短あることがわかりました。

入社して3年ほど経った頃、会社の同期から「過去の経験を喜怒哀楽で振り分けたとき、“喜”に当たるのは何だったか」と問われたのですが、自分にとってそのすべてがスポーツで得た経験、具体的に言うと高校の野球部での経験と、大学時代のアメフト部での経験でした。それを機に、もう外を見るのではなく、自分の内面を見よう、と。つまり、これからは自分が幸せになれること=スポーツを、仕事でも求めていくべきだと思ったのです。

その頃、アメフト部時代の先輩が留学していて、スポーツ経営という学問がアメリカにあることを知りました。僕は経営コンサルティング会社に在籍し、コンサルタントとしてのトレーニングは積んできていたので、スポーツ経営であればそのノウハウをスポーツ分野でも活かせると思いました。当時の日本でもスポーツ経営を学べる大学院はあるにはあったのですが、まだまだ「体育」の域を出るものではなく、今後スポーツビジネスの世界でやっていくと考えたとき、やはりその世界のトップを押さえないとそれを語ることはできないなと。スポーツビジネスのトップはアメリカですから、迷いなくアメリカの大学院に留学することを選択しました。

Q2.その後、ニューヨークで現在の会社を設立されますが、それまでの経緯は。

大学院で最初の学期が終わった冬休み、その先輩と日本のスポーツ業界について意見交換する機会がありました。当時は、不況から日本の社会人チームの多くが休部や廃部に追い込まれていた時代だったのですが、世間的には「企業は非情だ」という声が多かったんですね。でも、業績が悪くなれば負担になるチームを切るのは企業としては当たり前。株主に対する説明責任がより強く求められるようになる中、スポーツだけ特別扱いするわけにはいきません。スポーツ側が企業に対して支援の対価を提示できていないから、チームを存続できない。そういう感覚が日本には希薄だったのです。であれば、スポーツの価値をもっと社会に提案していく働きかけが必要だと、先輩と意気投合しました。それで、2001年2月に一緒に会社を設立することになりました。

その会社の事業は二つあって、一つは選手のマネジメント事業で、数名の日本人メジャーリーガーと契約していました。もう一つはコンサルティング事業で、アメリカの進んだスポーツ経営のノウハウをベースに日本のチームやリーグにアドバイスする業務を行っていました。僕が主に担当していたのはコンサルのほうでした。

しかし、選手のマネジメントとコンサルを同一の会社で行うとなると、いろんな不都合が出てきました。例えば、コンサルの立場でメジャーリーグの球団にヒアリングに行っても、「選手の代理人をやっている会社の人間に内部事情を包み隠さず教えることは難しい」となってしまう。また、日本の球界関係者は我々のクライアントであるにも関わらず、日本人メジャーリーガーのマネジメントをすることで「流出に加担している」と誤解を受けることもありました。こうした利害相反をなくすには、コンサル部分を切り分け、新たに会社を設立することが健全だろうと思うに至りました。そして2006年に設立したのが、現在のトランスインサイト株式会社です。

Q3.スポーツビジネス業界に入って、意外性や特殊性を感じることはありましたか。

もともとコンサルタントとして外からクライアントを見る立場にいたので、どの業界もいいところ悪いところの両方があると理解していました。そのため、スポーツ業界に限った意外性や特殊性を感じることはなかったですね。

ほかの業界と比べてみると、日本のスポーツ業界は中小企業の集まりで、プロ野球でも年間の売り上げが1200~1500億円程度と言われており、球団だと平均して100~200億円くらい。JリーグはJ1のチーム平均なら30億円程度で、いちばん高い浦和レッズでも60億円弱です。充実した研修制度はないし、情報収集や研究開発などの先行投資をする余裕もない。お金も人も不足している業界で、特に米国と比べると営業活動に充てる人材がまだまだ足りない。逆に言えばそこに秀でた力を持っている人材であればスポーツ業界で活躍するチャンスはあると思います。

アメリカの場合はもう少し資金に余裕があるので、リーグビジネスでも球団ビジネスでも投資的な側面がかなりありますが、日本では泥臭い仕事もできる人材でないと、今の日本のスポーツ業界には合わないかもしれません。

Q4.日本とアメリカでは、スポーツビジネスの人材や働き方に違いはありますか。

日本でもアメリカでもスポーツ業界への入り方は二通りあって、まず一つ目がエントリーレベル(新卒採用)からインターンとして下積みを経て、認められて正社員になり、役職が上がっていくパターン。もう一つは、他業界からある程度のポジションに転職組として入ってくるパターン。最近のアメリカでは後者が増えてきているように見受けられます。ハーバードやスタンフォードでMBAを取った優秀な人たちやウォール街で働いていたような人材がスポーツ業界の要職にどんどん入ってきています。

アメリカでは2001年に同時多発テロが起こってから、働き方の価値観ががらりと変わりました。それまでは収入重視の傾向が強く、優秀な人は平均年収の低いスポーツビジネスには行かなかった。でも、テロがあってから「自分の好きなことをやったほうがいい」という価値観が広がり、スポーツ業界に入ってくる人材が増えました。

また、米国のスポーツビジネスは右肩上がりの成長を持続していて、例えばメジャーリーグは過去20年間に売上を7.5倍にしています。それを背景にスポーツ業界もお金が回るようになってきたので、優秀な人材にはお金を払うようになりました。やはり、米国でも成長の基礎になるのは人材なんです。

日本とアメリカのスポーツ組織で顕著に違うのは、営業職の比率です。アメリカでは球団職員の半分くらいが営業ということも珍しくない。アメリカの雇用契約は「At-Will-Employment」といって、雇用主と従業員の両方の意志(Will)に基づいて成り立っているため、2週間前までに事前告知さえすれば、雇用主は従業員を解雇できますし、従業員も自由に辞めることができます。つまり、結果を出した人間だけが生き残り、できない人はどんどんクビになるし、逆に結果を出した人間を適切に処遇しないような組織から優秀な人材は離れて行きます。そのため、人材の流動が激しいですね。日本は事業よりも競技運営が重視される傾向が強く、営業職の比率は低いです。また、日本の雇用制度では簡単に従業員を解雇できないという事情もあり、雇用の柔軟性は低いですね。

文:岡田 真理 構成:SPOZIUM編集部