SPOZIUM(スポジウム)

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格闘技復活に込めた思いとその事業戦略(後編)

文:岡田真理

かつて“大晦日の風物詩”とも言われた格闘技が、5年ぶりに地上波で復活する。注目のイベント「RIZIN FIGHTING WORLD GRAND-PRIX 2015さいたま3DAYS」を手掛けるのは、かつてPRIDEをプロデュースした榊原信行氏。今回はその榊原氏に、PRIDEやRIZINなどのビジネススキームについてお話を伺った。後編は、PRIDEの売却からRIZINでの復活に至るまでのストーリーをお聞きする。
(前編はこちら

Q5.その後飛躍的に成長したPRIDEを、アメリカのUFCに売却した背景は。

僕は東海テレビ事業の社員として、東京と名古屋を行ったり来たりしながらPRIDEのプロデュース業務を続けていましたが、PRIDEが成長するにつれてそれも厳しくなり、2002年に退職して株式会社うぼんというイベント事業会社を立ち上げました。将来的には、格闘技以外にもいろんな事業をやりたかったのです。ところが、2003年の年明けにPRIDEの運営会社の社長が急逝。急きょ、立ち上げ時から関わっていた僕が社長に就任することになりました。

興行としては、毎回のように会場を満員にし、視聴率も合格点。アメリカでは93年に誕生したUFCが勢いを増していて、PRIDEとUFCは世界の2大格闘技団体として肩を並べていました。2005年頃になるとUFCは更に成長を遂げて、市場規模が日本よりも遥かに大きなアメリカを本拠地とするUFCが、一気に大ブレークしたのです。

当時、PRIDEの年商は約70億円で、UFCは100億くらいと言われていました。年商とそこまで変わらない額でPRIDEを買ったわけですから、UFCにはそれだけの資金調達能力と、コンテンツを査定する能力があった。効率のいい投資だと読めていたのでしょう。その後、UFCは年商500億ほどまで成長ようです。我々にもそのノウハウがあれば、という反省点はあります。

しかし、日本の地方局の一社員が「高田さんとヒクソンを戦わせたい」という熱意だけで作ったものが、結果的に数十億規模でアメリカに買われるほどのコンテンツに成長したわけです。UFCに売る以外に方法はなかったのか」という思いが去来しなかったわけではない。でも、価値あるスポーツコンテンツを生み出せた部分においては、自分なりに自負はありました。

Q6.今回、RIZINを立ち上げるきっかけとなったのはなんですか。

UFCへPRIDEを売却した際、もう格闘技に戻る気はありませんでしたが、PRIDEがなくなって以降、UFCは結局日本に根付かなかったし、大きな格闘技イベントも出てこなかった。ずっとPRIDEは続くのだと約束した選手やファンのことが頭に浮かびました。

いろんな条件が揃えば、可能性はあるかもしれない。そう思い、去年の秋からいろんな国の格闘技イベントを視察しはじめました。「やってもいいかも」から「やらなくては」に変わったのが今年の年明けくらい。僕が何か新しく立ち上げるならば、地上波は絶対に必要だと考えました。そして「地上波放送を取り戻して格闘技に戻るしかない」と強く思い、実行に移したのです。

大晦日にしたのは、一年で一度だけ視聴率が横並びで比較される日だからです。サッカーの日本代表戦が何パーセント、と新聞の見出しになることはありますが、全局が比較されるのは大晦日だけ。年末は編成が自由になるという事情もありますが、やはりその横並びに賭けるという気持ちはあります。

今回もスカパー!での放送を行いますが、10月8日にイベントの発表記者会見をやった翌日、カスタマーサービスは電話が鳴りやまなかったらしいですよ。当時PRIDEを見ていてくれたファンが、今回のRIZIN復活を喜んでくれたんだなと、とても嬉しかったですね。

Q7.来年以降、RIZINという組織をどう展開していきたいですか。

2020年には世界で30億台を超えるスマートフォンが使われることになるようですから、最終的には格闘技をスマホで観戦する文化を根付かせたいなと。格闘技は1対1でリングの中でやるスポーツなので、サッカーや野球などのフィールドスポーツに比べてスマホで見やすいんです。しかも一試合の平均がだいたい10分ほど。スマホとは非常に相性のいいスポーツコンテンツだと言えます。

その種まきとして、RIZINをいろんな国の地上波で放映できるよう、今全力で整備しています。例えば、今のアメリカでRIZINブームを作ることができたとしても、PPVにしたら10万人くらいしか見られない。でも、スパイクTV(地上波)であれば150万世帯が見る可能性がある。今まで、エメリヤーエンコ・ヒョードルという選手はアメリカでは決して地上波で見られない選手だった。でも、今回はスパイクTVで「みなさん、あのヒョードルがタダで観られますよ」と謳っています。

ヨーロッパや南米、アジアでも放映権のハードルを上げずにみんなに見てもらう環境を整えています。一気に世界中に露出する戦略です。今は投資の時期で、年末のRIZINはプレゼンテーション。最終的にはスマホで課金して見るコンテンツにしたいのですが、そのためにはRIZINというブランドを世界中に広める必要があります。

世界中の人たちに、「武士道の国・日本から発信するコンテンツはやっぱり違う」と言わせることが今回のミッションです。2020年の東京オリンピックに向けて、世界の注目が日本のスポーツに集まってきますが、それに伴って日本の格闘技イベントを世界中の人たちが見に来るような流れも作っていければと考えています。

世界の格闘技のマーケットは、PRIDEの頃に比べるととても大きくなりました。ヨーロッパは以前から格闘技人気が根強いですが、アジアも南米もこの10年で成長を遂げてきた。世界に広がったマーケットの中に、確実にコンテンツを届けていくこと。それが、今の僕が取り組むべき課題です。

文:岡田真理