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リオ五輪スポンサーシップの勝者は?

南アメリカ大陸で開催される初めての大会ということで大きく注目を集めたリオデジャネイロ夏季オリンピック・パラリンピック大会が閉幕しました。実際に開幕を迎えるまでは、競技会場の建設の遅れや、ジカウィルス問題、治安への懸念、そして開幕直前のロシア選手団によるドーピング違反など、ネガティブなニュースが続きました。しかし、大会が始まってしまうと大会運営に支障をきたすような致命的な混乱はなく、つつがなく大会を終えることができたようなポジティブな印象が残りました。

こうした運営面の評価はさておき、スポジウムの読者の皆さんが気になるのはそのビジネス面での評価でしょう。閉幕直後ということで、速報値の域を出ないかもしれませんが、リオ五輪で公式スポンサーの活動がどのように評価されているかをお伝えしましょう。

現地アクティベーション環境の当事者評価はB+

私が目にした範囲ですが、開幕前からリオ五輪のスポンサー活動は簡単には行かないだろうと言う(米メディアからの)報道が少なくありませんでした。理由は、ブラジル経済の不調や政権スキャンダルによりオリンピックが国民から冷めた目で見られている点に加え、新興国であり、陽気でマイペースな国民気質のブラジルで緻密なアクティベーション計画の遂行に不安を感じる向きもあったようです。

こうした前評判の低さも手伝ってか、結論から言えば、現地でのアクティベーションに関しては「可もなく不可もなく」という評価が多かったようです。英語で言えば、「Brazil outperformed low expectations」(ブラジルは低い期待値を乗り越えた)のような評価を多く目にしました。

前回夏季五輪のロンドン大会に比べると現地でのアクティベーションは規模自体が小さかった上、露出も限定的だったようです。運営面でも小さなトラブルが多発し(バス停から会場までのアクセスが悪い、バスの運転手が道を知らない、会場では空席が目立つ、売店が少なく長蛇の列が出来ている、ボランティアへの教育が行き届いていない等)、お世辞にも来場者に世界最高レベルのアクティベーションやおもてなしが展開できたとは言えなかったようです。

米SportsBusiness Journal誌はリオ五輪前半を終了した時点で、現地にいるTOPスポンサーやUSOC(米オリンピック委員会)スポンサー、マーケティング会社の幹部らを招いた座談会を行ったのですが、そこでの評価も上記理由から概ね「B+」が大半でした(参考:Olympic vets give Games a B+ at midpoint。購読には会員登録が必要)。

大らかなブラジル人気質がこうした運営面の不手際を吸収してくれ、小さなトラブルはあったものの、致命的なトラブルはなく、良くも悪くも「人間味あふれるオリンピック」というポジティブな印象で大会を終えることができたと言えるでしょう。言い方は悪いかもしれませんが、期待値が低かった分、トラブルも目立たなかったという訳です。

ブランド露出、断トツの首位はサムスン

一方、「オリンピックの99%はメディアで消費される」とも言われます。五輪会場に足を運ぶ来場者の数より、テレビやインターネットなどを通じたメディア消費者の比率の方が圧倒的に多いためです。

では、リオ五輪におけるグローバルなメディア環境での協賛活動はどのように評価されているのでしょうか?

参考になる1つの指標が、言語・ブランド調査会社Global Language Monitor社が開発したブランド指標「BAI」(Brand Affinity Index)です。BAIとは、印刷メディアやテレビ、ソーシャルメディアを含むインターネットなどの包括的なメディア環境において、オリンピックの文脈でどれだけそのブランドが言及されたかを数値化したものです。

GLM社によると、リオ五輪の大会期間(17日間)における主な企業のBAIランキング(上位20社)は以下の通りです。

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誤解がないように予めお断りしておきますが、この数値が協賛効果を全て説明するものではありません。当然、アクティベーションの狙いが露出以外にあるケースも増えてきており、そうした露出以外の効果を数値化したものではありません。あくまでも、グローバルメディア環境でのブランド露出を数値化した1つの指標として理解して下さい。

この調査によれば、並み居る一流企業を押しのけて圧倒的な差でトップとなったのが、11社あるTOPスポンサー中の1社、サムスンでした。

 “困難に挑戦”したサムスンのメディアキャンペーン
サムソンが展開したマーケティングキャンペーンは、「困難に挑戦する全ての人たちのスポンサー」(Proud Sponsor of Those Who Defy Barriers)をタグラインに据えたものでした。キャンペーンは、①CMキャンペーン、②ソーシャルマーケティング、③販促プロモーションの3つに大別され、統一ハッシュタグとして「#DoWhatYouCant」(できないことに挑戦しよう)が用意されました。

CMキャンペーンでは、「国歌」(The Anthem)と「賛歌」(The Chant)の2パターンが制作されましたが、いずれもオリンピック選手を起用したものです。「国歌」では、世界各国の人々が他国の国歌を歌い合うというもので(6名のオリンピック選手もこれに交じって出演している)、世界の融和を目指した荘厳な出来栄えになっています。今では3000万ビュー近い視聴数を稼いでいます。

一方、「賛歌」は2011年の独立後、今回が初のオリンピック参加となった南スーダンの19歳の女子陸上選手、マーガレット・ハッサンに注目したものです。同選手が全国からの期待を背負ってフィールドに入る緊張の瞬間を、祖国のフラッシュバック映像とともに感動的に表現しています。多くの国民が内戦で家族と離散し、男性社会の色濃い同国で、19歳の女性が世界的な舞台で羽ばたこうとする様子は、多くの人々に感銘を与えています。

ソーシャルマーケティングでは、アカデミー賞受賞監督モーガン・ネヴィルをディレクターに招聘して特別ドキュメンタリー作品「チャンスは自分次第」(A Fighting Chance)を制作し、YouTubeに公開しました。36分のドキュメンタリーは、バヌアツのLinline Matauatu選手とMiller Pata選手(ビーチバレー)、レソトのTsepo Mathibelle選手(マラソン)、ドミニカのYenebier Guillen Benitez選手(ボクシング)のオリンピックへの挑戦を追いかけたもので、200万ビュー以上のアクセスを稼いでいます。作品はリオ五輪に先立ち、今年4月にNYで開催されたトライベッカ・フィルム・フェスティバルにも出展され、プレミア公開されています。

販促プロモーションでは、五輪開催に合わせてオリンピック仕様の新機種Galaxy S7 Edgeがリリースされ、前述したテレビCMやソーシャルマーケティングと連動したPRが行われました。新モデルは黒を基調に五輪マークや5色のオリンピックカラーを施したシックなデザインになっており、リオ五輪マークをあしらった特別ケースに入って販売しました。これを五輪に参加した選手に無料配布したそうです。

また、同社はNBCと提携し、NBC OlympicsからGalaxyのGear VR機能向けに85時間ものVR映像の独占提供を受けていています。特別映像は、開会式と閉会式の360度映像や、主要7種目の競技映像などで、NBC Sportsのアプリを通して視聴することができました。

トップ20社にランクインするアンブッシャー

最後に、先ほどのランキングを見てお気づきになった方もいらっしゃると思いますが、実はトップ20社にはオリンピックの公式協賛企業でない会社も多くランクインしています(上表の網掛けがTOPスポンサー)。そして、中には協賛企業以上のブランド露出を実現している会社も少なくありません。

こうした企業は、協賛企業が年間数十億円もの巨額な権利料を支払っているのを尻目に、違法スレスレの領域であたかも協賛企業のように振る舞ってマーケティング活動を行うことから、ライツホルダーからは「アンブッシャー」(Ambusher。Ambushは「奇襲攻撃」「待ち伏せ」などの意味)と呼ばれ、彼らの広告手法はアンブッシュ・マーケティングなどと呼ばれています。

しかし、見方を変えれば協賛活動とはスポーツの興行主が一方的に定めた権利であり、企業による一般的なマーケティング活動を制約するものではありません。米国では、オリンピックなどのビッグイベントが開催されるたびにアンブッシュ・マーケティングの特集や総括が組まれるなど、1つのマーケティング手法として確立されています。

次回はリオ五輪のアンブッシュ・マーケティングについて触れてみようと思います。