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アジアと「共に成長する」モデルを掲げるJリーグ(前編)

文:新川 諒 構成:SPOZIUM編集部 

Jリーグが掲げる5つの戦略のうちの1つであるアジア戦略。少子高齢化が進む日本社会から世界に視野をひろげ、海外からのスポンサーやファンを呼び込む戦略が求められ、2012年1月にアジア戦略室が立ち上がった。2015年4月より国際部と名称を変えているが、そこで職員としてJリーグのアジア戦略を推進している山下修作氏と大矢丈之氏に話を伺った。 単にアジアに商圏を拡げる施策ではなく、周囲のアジア諸国を巻き込み共に成長するというメッセージを掲げる、Jリーグにしかないアジア戦略に迫る。

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公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)国際部リーダーの山下修作氏

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同じくJリーグ国際部 兼 事業・マーケティング本部 事業部ビジネス戦略グループ
アシスタントチーフの大矢丈之氏

アジア戦略室創設のきっかけ

2008年のリーマンショック以降、 スポンサーや広告獲得が比較的難しい状況となった。そこで勢い良く成長を続けているアジア諸国に目を向け、アジアでのビジネスの可能性を考え始めた。最初の案はJリーグが培ってきたノウハウを2009 年頃から発展し始めたアジア各国のリーグに提供するというもの。リーグがコンサルティングしている例は世界を見渡してもあまりなく、1つの大きなビジネスチャンスと考えた。

まず初めに、山下氏は自分の足で自分の目でアジアのリーグを見にいく。ファンからユニフォームを寄付してもらい、カンボジアの子供たちにそれを送り届けるというプロジェクトでアジアを訪れたことがきっかけだった。 日本の押入れに眠っていたユニフォームをアジア諸国の子供達に届け、笑顔にする。各クラブのユニフォームが集まり、それを身にまとった子供達でいっぱいになる広場は世界で1番カラフルな空間となる。このプロジェクトはカンボジアから始まり、東ティモール、さらにはミャンマーへと広がっていった。今後も訪れる国を増やしていくと山下氏も語った。まずはぜひその様子を映像でご覧いただければと思う。

ユニフォームを届けたのちにアジア各地を視察して改めて実感したのは、勢いのあるアジアのリーグにビジネスチャンスはあるということ。それぞれの国でサッカー界に携わっているのは会社の社長や財閥のトップの方々が多い。一方でアジア各国に単純にJリーグのノウハウを提供するという形をとると、いずれはより大きなビジネスを作り上げているヨーロッパに流れてしまうのではないかという懸念もある。そのような状況からサッカーを通じて日本の企業や自治体をアジアとつなげる方が全体的に大きなメリットを生むと考えた。Jリーグはまずはリーグのノウハウを無償で提供してアジア諸国との関係性をつくるという方針に転換。そこで育んだ関係性で全体を盛り上げていく戦略をとる。

2012年1月にこのようにしてアジア戦略室がスタートした。

アジアと共に成長する

現在のアジアの中だとJリーグが占めるマーケットの割合は大きいが、世界と比べるとその規模は小さい。Jリーグのノウハウを惜しみなく提供することにより、アジアのサッカーマーケット自体を成長させることで、Jリーグが成長する余地も大きくする。更なる成長を目指すJリーグと共に成長しよう、そして共にW杯へ一緒に出ようというメッセージを送ることにより、無償でノウハウを提供するJリーグに疑問を感じていたアジア諸国からも信頼を得て、取り組みを始めることができた。

次にアジアのサッカー市場を分析すると、2009年当時は、毎年およそ2000億円がヨーロッパのサッカー界の消費に回っていた。 そこをチャンスと見た。

1992年開幕時当時のJリーグは今ほどヨーロッパとの差はなく、 選手の報酬もヨーロッパでプレーする選手たちと あまり変わらなかった。実際に現役ブラジル代表選手がJリーグに加入するなど盛り上がりを見せていた。しかし1995年頃から海外衛星放送のビジネスが栄え、ヨーロッパの主要リーグはマーケットを世界に拡大。そのビジネスが世界 200カ国以上に広がることで、ヨーロッパ主要リーグは売上を飛躍的に伸ばしていった。

ヨーロッパ主要リーグの売り上げ構成をみるとアジアから巨額のスポンサー料や放映権料などが動いていることが分かった。ヨーロッパ主要リーグの選手の給料は急激に高騰し、スタジアム運営や放送技術の質も向上。アジアからのお金がプレミアリーグをはじめヨーロッパ主要リーグを支えていたといっても過言ではなかった。アジア発のサッカーに使われるお金がアジアではなくヨーロッパで使われている。これは、発想の仕方を変えれば、大きなビジネスの可能性はすでにアジアにあるとも言える。ヨーロッパに流れているフットボールマネーをヨーロッパでなくアジアに使われるようにすることがポイントだった。

ではヨーロッパ主要リーグのサッカー界に向いているアジア諸国の目を、Jリーグが主導してアジアに向けていくには何を強みとしていけばよいのか?

弱みを強みに

各国それぞれのサッカー界が独自の強みを持っている。例えばドイツは集客力、プレミアリーグは映像力とセンスの良さ、スペインはバルセロナを筆頭にスター性などがある。Jリーグの強みとは?考えた末に生まれた逆転の発想。それが「弱みを強みに」である。

元々は決して強いとは言えなかった日本という国がJリーグを立ち上げ、みるみるうちに強くなり、今やW杯常連国になった。この成長曲線を持つ国は世界を見渡しても、日本しかない。短期間で着実に成長できるノウハウを持ち合わせているのが日本の強み。そしてヨーロッパのようにアジアを稼ぐだけの市場と捉えるのではなく、アジア経済センターの一員として、共に成長していこうというのがJリーグの目指す形である。

またそれがアジアにいる強みであり、「アジアのお金はJリーグにではなく、アジアのお金はアジアのために」というスローガンを掲げた。

アジア各国はサッカー好きの政治・経済界の人たちが多く、ビジネスに直接携わっていることも多い。 サッカーはこのようなトップの方々にも、そして一般層にも、二つのレイヤーに効く。またJリーグは現在70カ国で放送されており、これはアジア内でも受け入れられている証拠とも言える。

クールジャパンのコンテンツでは自ら放送枠などに投資をしながらアジアに進出しているものが多い。しかしJリーグのアジア戦略では、逆に放映権料をもらいながら1シーズン(約9ヶ月間)毎週試合を流してもらっている。それは様々な交渉もあったからだが、単純にサッカーというスポーツがアジア各国の国民に愛されているからだ。Jリーグの試合はヨーロッパと時間帯が被らないためにアジアでの放送は快く受け入れられ、販売に成功していた 。

アジア諸国民のサッカー愛は、今後日本のコンテンツを押し出していくプラットフォームにもなり得るだろう。そして“共に成長し海外に進出しよう”というメッセージを掲げることで、サッカーだけではなく、さらにいろいろなコンテンツや企業から共感を得ることができるのだ。

※後編につづく(後編は2015年7月16日に公開予定です。)

文:新川 諒 構成:SPOZIUM編集部