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日本の野球文化発展のために統一化された「侍ジャパン」の現在と今後の展望

文:新川 諒 構成:SPOZIUM編集部 

世界でも有数の野球強豪国として知られる日本で日本代表を常設化し、若い世代に野球を身近に感じてもらい、さらには事業としても収益を最大化するために侍ジャパンが生まれた。

その事業が本格化してから約2年が経過しようとしている。現在、そして今後の展望を事業部兼広報部で侍ジャパンの事業に携わる加藤謙次郎氏に話を伺った。

侍ジャパン事業立ち上げのきっかけはについてお聞かせください。

侍ジャパンの常設化の前の段階では、日本代表は大会ごとにチームを作っていました。オリンピック、そしてワールドベースボールクラシックの二つの大きな大会ではそれぞれ別の窓口でチーム運営がされていたのです。オリンピックではBFJ(全日本野球協会)が窓口となりプロ野球に選手の派遣を依頼し、ワールドベースボールクラシックではメジャーリーグ主催の大会であるため、NPBが窓口となり選手の派遣を依頼していました。大会によって窓口がバラバラで、ルートが二つある状態を解消すると共に、各U世代が「侍ジャパン」というブランドで統一されることによって野球ファン獲得のための大きな構想として侍ジャパン事業を立ち上げました。

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NPBエンタープライズ事業部兼広報部 主任 加藤謙次郎氏

海外戦略についてはどんな考えをお持ちでしょうか。

侍ジャパンが海外戦略を掲げる理由は二つ存在しています。定期的に試合をすることでファンの方々に侍ジャパンをより認識してもらう興行的な側面と、2017年のワールドベースボールクラシックに向けたチーム作りが短期的な理由です。そしてもう1つの中長期的な考えとしては、野球を普及していくための事業展開です。東南アジアやオセアニア地域に野球を普及させることで新たな市場を生み出し、野球人口を増やすことでオフィシャルパートナーと共に事業開発をしていくことを目標としています。

市場開拓をしていくことにも、指針があります。将来的には放映権ビジネスが成立しうる存在となっていくことを目標として、海外戦略においては次のような条件を掲げています。

①日本との時差が5時間以内であること。
②野球発展途上国であること。
③まだMLBの手が及んでいない地域であること。
④日本との親和性を持っていること。
⑤経済的に発展していける可能性を持った地域であること。
⑥競技力のレベルを高めていけるポテンシャルを国民が持ち合わせていること。

これらの条件に当てはまり、今展開をしようとしている国の一つがニュージーランドです。元千葉ロッテマリーンズなどで活躍されていた清水直行さんが今はニュージーランド野球連盟のGM補佐をされています。BFJ(全日本野球協会)や侍ジャパンのオフィシャルスポンサーとともに、ニュージーランドの野球少年たちを日本に招待し、レベルの高い野球に触れさせるきっかけをつくるという構想を打ち立てています。今後のビジョンとして、この構想をお互いにとって利点があるプロジェクトとして進めていく考えをもっています。

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ニュージーランドでの野球教室の様子

今後国内でどう野球を普及していき、促進していこうとお考えでしょうか。

国内では2013年5月にJBMC(野球日本代表マネジメント委員会)が立ち上がり、組織構造上においてプロとアマチュアにつながりができました。全世代を統合する仕組みが出来たことで、野球の競技人口を増やしていく活動を進めることができます。

ですが、小・中学生の競技人口、特に軟式野球の人口は減少しています。4・5歳から気軽に始めることができるサッカーなどに流れているのが現状です。地上波の中継も減り、野球に触れる機会が少なくなったことも影響しているかと思います。その一方でリトルリーグやボーイズリーグなどの少年硬式や高校野球など本格的に野球をする層はマイナスにはなっていません。

今の時代は遊びでスポーツをすることが減少しており、「スポーツの塾化」が進んでいます。野球以外にもサッカー、テニス、ゴルフ、フィギュアスケートなど現代の子ども達はお金をかけてスポーツをしています。お金をかけて一度競技を始めると持続性が高いため、どのスポーツ団体も子ども達に最初に触れてもらうスポーツになりたいという考えで競争が激化しています。子ども達に野球というスポーツを選んでもらうために地上波で露出をするなどし、憧れをもってもらうかことが重要になってきています。

侍ジャパン事業を促進していくために必要不可欠なパートナーであるメディアについてはどのようにお考えでしょうか。

まだまだ侍ジャパン授業が発展途上段階である、という現状において、まず、各放送局と向き合い、侍ジャパンの試合を地上波で放送してもらうのが大前提です。

その一方で、直近の日本シリーズの分析を社内で行ったところ、35歳以上の視聴率が高く、10代、20代は非常に低いというデータが出ました。若者の野球離れが原因とも考えられますが、それと同時にデバイスの問題も考えられます。今後、時代はますますデジタル化していく中でどう野球を普及してファンを獲得していくのかが我々の役目となります。野球に触れてもらうきっかけをいかに放送局と共にデジタルを上手く活用しながら多くの人に提供していくかが課題です。

2014年に開催された日米野球では、有料ネット配信をしました。有料にすることで一般層へのハードルは高くなってしまったものの、データスタジアム社やBloomberg社と組み「日米データ分析対決」を実施したことによって、今までにない様々なデータを活用した解説が可能となりました。データを駆使した日米野球の解説に価値を感じる方もいて、今後に繋がる結果となりました。

そして野球と各世代との接触機会を増やしていくために、 野球マンガとの新たな取り組みも始めています。侍ジャパントップチームの試合はシーズンオフの3月と11月にしか組めないため、チームや試合には頼らないコンテンツで野球ファンを獲得することが重要であり、マンガとの取り組みに至りました。野球マンガを活性化させることで、海外でも強い人気を誇る日本のマンガという文化と共に盛り上げていきたいと考えています。

私たちの世代ではテレビを見ながら野球マンガを読み、それが野球ファンになるきっかけでもありました。その野球マンガを盛り上げることで、野球界全体も一緒に盛り上げていければということで、お互いが協力をして取り組みを進めています。

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侍ジャパン×野球マンガキャンペーンのポスター

最後に今後の侍ジャパン事業の展望について教えていただけますか。

8月26日に開催される侍ジャパンU-18代表対侍ジャパン大学代表、8月28日から始まるU-18ベースボールワールドカップ、そして11月に初めて開催される世界野球プレミア12と侍ジャパンの事業が続きます。

これらの大会においては全世代が侍ジャパンであることを促進していく機会と考えています。甲子園で戦いを終えた高校球児たちが、侍ジャパンのユニフォームを身に纏って戦うのは大きな露出の機会となります。そしてU-18代表と大学代表が初めて対決することによって、 学生の最強プレーヤーたちが集まるのは魅力となるかと思います。ファンの皆さんにとっても興味を持ってもらえるマッチメイクを心がけ、実現しました。U18の大会は木製バットが使われるため、新たに順応していく姿を見られる機会となるかもしれません。

今回は高校野球ファンの方にも楽しんでいただけるよう、朝日新聞、朝日放送の協力を得て、バーチャル高校野球での配信も決定しました。ぜひ、将来の野球界を担う次世代の侍ジャパンの活躍にご期待ください。

プレミア12はU-12からトップチームまで、全世代のポイントによって野球ランキングに反映されます。各世代が世界大会で上位入賞することで積み上げたポイントを元に各国のトップチームが戦うということで、競技者全体が一体感を持って臨む大会となります。この新たに開催される大会は国の「野球力」全体で戦う大会であり、野球ファンの方に楽しんでいただけると嬉しいですし、また、普段はあまり野球に興味を持っていない人や、かつてファンだったけど今は少し興味が薄れてしまっているような方にも楽しんでいただければ、と思っています。それこそが野球文化の発展に繋がる、と信じていますので。

文:新川 諒 構成:SPOZIUM編集部