SPOZIUM(スポジウム)

ACTIVATION

金融カテゴリのホットボタン(後編)

文:鈴木友也

前回のコラムでは、金融カテゴリの業界特性を整理した上で、その代表的な“ホットボタン”について解説しました。おさらいしますと、代表的なものとしては、以下の6つが挙げられました。

企業認知度の向上
企業の認知度を高めたり、ブランド好意を形成することで新規顧客獲得につなげる

潜在顧客へのタッチポイント創出
潜在顧客、特に銀行口座未開設・保険未加入の若年層との間に接点を創出し、顧客開拓の機会を作りだす

口コミや紹介を誘発する仕組みの構築
ソーシャルメディアの活用などにより、商品やサービスの口コミを誘発する仕組みやプロモーションを設計する

付加的サービスの提供
ファンとの間に強い結びつきのあるスポーツの特性を利用し、ファンを顧客化することでブランドスイッチを促す

外交員や代理店の士気向上
販売チャネルの中心を担う外交員や代理店のモチベーションを維持・向上するためのリワードやプロモーションを企画する

代理店を巻き込んだプロモーション機会の創出
代理店が商品を販売しやすいプロモーションを企画し、販売促進を促す

今回は、これらのホットボタンを踏まえた具体的なアクティベーション事例をご紹介しようと思います。

米国では命名権の3分の1は金融機関が取得

前回のコラムでも触れましたが、金融業の業界特性の1つとして、サービスや価格での差別化が難しいうえ、サービス・商品内容自体が分かりにくいことが挙げられました。そのため、顧客のマインドシェアを高めたり、ブランド好意を高めるために、スポーツ組織との間に長期的な契約を結ぶケースが多く見受けられます。その代表的な形態が命名権です。

<表:米国4大スポーツの命名権導入状況(2015年9月現在)>
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出所:トランスインサイト株式会社調べ

米国4大スポーツの120施設中、命名権を導入しているのは97施設ありますが、うち金融業が命名権を取得しているのはその約3分の1に当たる33施設もあります。特に、ウォール街があり、世界金融の中心地であるマンハッタン近郊には6つのスポーツ施設(4大スポーツ)がありますが、命名権をつけないことをポリシーとしているヤンキースタジアムとマジソン・スクエア・ガーデン(MSG)以外の4つの施設は、いずれも金融機関が命名権を取得しています。

では、なぜ多くの金融機関が命名権を取得するのでしょうか?日本では命名権が単に「施設に名前を付けられる権利」と誤解されていますが、実際は違います。米国では、命名権取得企業には協賛契約の最上位スポンサーとしてあらゆる便宜が図られるのが一般的で、多くの場合は施設設立時からの共同創設パートナー(Founding Partner)になっています。

長期的なアクティベーションを担保する命名権契約

例えば、2009年にオープンしたニューヨーク・メッツの新スタジアムの命名権は、Citigroupが取得しています(Citi Field)。20年で総額4億ドル(約480億円)の大型契約でした。

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この契約により、Citigroupは新スタジアムの命名権を取得しただけでなく、球場内への看板広告の掲出や飲食売店へのCitibankロゴの掲出、ATMの設置、スイートボックスの利用などの権利を得ています。

これらはごく基本的なメニューですが、それ以外に会員特典プロモーション「Citi Tuesday」を実施したり、10代の子供たちを球場に招待する「Citi Field Kids」など、数多くのプログラムを実施しています。

Citi Tuesdayは火曜日の試合にCitibankのクレジットカードか銀行カードを持っている会員のみ球場で特典を受けることができるプログラムで、入会促進や利用促進に繋がっています。代表的な特典としては、チケットやグッズ、飲食の割引購入、レストランでの優待、ラウンジへの特別アクセスなどが挙げられます。

商品やサービスでの差別化が難しい金融業では、こうした特典が地元ファンにブランドスイッチ(競合他社からの乗り換え)を促し、顧客化につながる有効な施策となります。火曜日は集客に苦労するので、球団としても来場促進に寄与するWin & Winの施策です。

また、Citi Field Kidsはニューヨーク周辺の10代の少年・少女をCiti Fieldに招待し、球場ツアーと試合観戦を実施するプログラムです。内容は毎回異なり、黒人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンの歴史を学んだり、野球やビジネスリーダーから特別講義を聞いたり、選手による野球教室を実施することもあります。

子供たちが人生の目標に挑戦する動機を与え、背中を押してあげることを目指しているプログラムですが、同時に口座開設前の若年層とのタッチポイントを作りだし、彼らに対してブランド好意を高めることで将来的な顧客化を狙っています。

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出所:http://www.scholastic.com/browse/article.jsp?id=3751764

Citi TuesdayやCiti Field KidsはメッツがCitigroupのために実施している無数のアクティベーション活動の1つに過ぎません。また、企業の経営課題は毎年変化するため、こうしたプログラムの内容も毎年見直されることになります。

このように、一見命名権という形を取りながら、その裏で企業の持つ経営課題に応じた様々なアクティベーション・プログラムが走っているのが普通です。Citigroupとメッツの事例では、命名権による「企業認知度の向上」やCiti Tuesdayによる「付加的サービス提供によるブランドスイッチの促進」、Citi Field Kidsの実施による「潜在顧客へのタッチポイント創出」という形で整理され、展開されているのです。

文:鈴木友也