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サンフランシスコ大学マイケル・ゴールドマン教授が語る 「メガイベントとスタジアムの関係性」(後編)

インタビュー・文:田中裕太 構成:SPOZIUM編集部

前回は University of San Francisco Assistant ProfessorのMichael Goldman教授に新スタジアムを建設の際にどの様な事を考慮して建てるのかサステナビリティ(持続可能性) とレガシー(遺産)をキーワードにお話してもらいました。
今週はこのサステナビリティ(持続可能性) とレガシー(遺産)の観点から世界ではどんなスタジアムがどのように上手く運営されているのか、また2010年南アフリカW杯後の国内の現状およびその後のスタジアムについて質問してみました。

田中(以下、T):2010年南アフリカW杯後、そこで使用された競技場はどうなっているのでしょうか?

Goldman教授(以下、G): 2​010年W杯のために新建設されたスタジアムのほとんどは、大会以降、あまり使用され ていません。​南アフリカW杯のために建設されたこれらのスタジアムのほとんどは、市などによって管理されていますが、市などの行政機関は、時として複合施設の利益を生むための管理をすることに適していません。

南アW杯会場

南アフリカW杯のためにアップグレードされたスタジアムは比較的良く利用されていると思います。例えばヨハネスブルグの象徴であるFNB Stadiumや、Moses Mabhida Stadiumなどは数多くのスポーツや音楽のイベントを開催しました。重要なのは、これらのスタジアムはいまだにクリケットやサッカー、ラグビーなどのメジャースポーツチームのホームスタジアムになっていないということです。チームなどのホームスタジアムとして決まれば、もっと利用率は増えるでしょう。

一方で、その他の南アフリカの数々のスタジアムは違ったスポーツをそれぞれのスタジアムごとに利用するので使用に対してバリエーションがありません。これは多目的性という観点からも施設の利用率を下げていることになります。その中で南アフリカW杯のためにアップグレードされたスタジアムは比較的良く利用されていると思います。

T:南アフリカはW杯のレガシーを継続できていると思いますか?

G:W杯のために整備されたもの以外のインフラについて、例えば、道路・高速道路・ホテル・空港・観光施設・通信回線網…などで言えば、多くの南アフリカの人達に恩恵を与えていると思います。
しかしながら、それらの建設費用や投資などの良し悪しに対しては、いまだ賛否両論です。 公的な資金をメガイベントに関係するインフラ整備に投資するとき、イベント後の維持費用なども含め、一般市民はそのコストを請け負いすぎていると感じることがあります。
南アフリカW杯は国民に一体感を与えるという目的においては多くのレガシーを残しました。開催国の一員になれるという気持ちの高揚などは長い期間残る一方、一般市民への経済的負担という意味では、市民が大会後に感じる経済的プレッシャーは大きいのではないかと思います。

T: 一般的に言って、競技場はどのようにして利益を生むのでしょうか?

G: 成功的な多目的スタジアム及び複合施設でいうならば、チケットや利用料などの利益をスタジアムと結ぶ主要なパイプラインとして、多くのスポーツ、音楽、ビジネス、文化的イベントが開催されます。人気のあるスタジアムでは一般的に、年に30−50もの大型、中型イベントが開催されます。最近では会議室などを使った小規模のイベントを開催したり、施設内のスペースをレストランやお店などに貸して利益を得ている所も増えています。
スタジアムが新しいという点や最新のテクノロジーや設備は大切ですが、ロケーションやスタジアム内でのサービス、そのマネジメンントの方がより大切と言えるでしょう。

T:日本がビジネスモデルとして参考にした方が良いスタジアムなどはあるのでしょうか?

G: ロンドンのWembley Stadiumなどは2つの観点から学べるケースだと思います。

ウェンブリー

1つめは多目的性という面。サッカー、ラグビーリーグ、ラグビー連盟公認の試合、陸上競技、アメリカンフットボール、音楽やその他のエンターテインメントなどを、多岐にわたり開催できています。
2つめは交通アクセスの面。多くの公共交通機関が行き届き、また交通手段の選択肢が多い ため、周辺での渋滞や人ごみなどを軽減できるようになっています。バルセロナのオリンピックスタジアムも、1992年の夏のオリンピック以来、様々な形で利用され、また過去数回再建・リニューアルされたりして、初期投資に対するリターンを伸ばしてきている例として挙げられると思います。

T:テクノロジーはスタジアムにとってどのくらい大切なのでしょうか?よりスポーツファンに足を運んでもらうきっかけになるのでしょうか?

G: スタジアム内での高速Wi­Fiでいえば、いまだ結論が出ていないのが正直な所です。 ある研究では、観戦者はソーシャルメディアなどをスタジアム内で利用できることを喜ぶと言っている一方で、トイレの清潔さや売店の質などの方がより大切であるという研究結果も出てきています。スタジアムのオーナーはまず施設の質を高め、その中でイベントや利用者のニーズに合わせていく、ということが得策でしょう。

ウェンブリー2

 

(インタビューを終えて)

教授のインタビューにある通り、海外では最新スタジアム建設のために最新の設備を整えるのが大切という風潮があります。実際に、用途を見極め、スタジアムでただ単にスポーツを観戦するというのではなく、最も根本的なところに迫り、スタジアムというプラットフォームを使い何をするのかなど、ビジネスモデルからしっかり検証されています。
例えば、アメリカでは高速Wifiが設置されるのであればそこに対してソーシャルメディアやデジタルマーケティングの専門家とスポンサーチームがチームとなり、しっかりアクティベーションをかけます。その様な戦略をもった時に初めてWifi設置の必要性が出てきます。
投資に対して費用対効果を検証し、ビジネスモデルがしっかりと明確になっていることが重要で、設備への投資は最新設備を完備させたり、巨大なスタジアムをつくることだけではない、という考え方が主流となっているようです。
日本のスタジアムにおいても、単なる競技場でなくプラットフォームや多目的利用施設という概念を大切にしていく必要があると思います。

インタビュー・文:田中裕太 構成:SPOZIUM編集部